もう太陽がじりじりと笑う5月の南仏で
この空気が指先や髪の先まで届くよう
窓も鼻の穴も思いっきり開いて深呼吸してみる
車のラジオから流れてくる
早口なフランス語をもごもごと真似ながら
通りすぎて行く家々の窓の色やオークル色の納屋をコマ送りで眺めては
進んでいるこの道が間違っていないか人差し指で地図をなぞっていく
『うん。次のロンポワンを右。』
ほっとして顔をあげたその瞬間
目に飛び込んできたのは一面の赤!
興奮しながら車を脇にとめ
赤い正体に走り寄る
そこには
真っ青な空にゆらゆらと浮かぶ
真っ赤なコクリコの絨毯
すると
私は小さな虫になって
透けるレースの花びらにふわりと舞い降りるのです
キラキラと降り注ぐ光のシャワーでからだを休め
ラベンダーの香りをまとった風の婦人が微笑みながら髪の隙間を通り抜けていきます
『ずっと、待っていましたよ。』
すっかり気をよくした私は
午後の音を聞きながら
そばかすを乗せて帰るのでした